はじめに
今回お話を伺ったのは、大阪の高校を卒業して、台湾のトップ大学・台湾大学の政治学科に正規留学しているりさりささん。交換留学や語学留学ではなく、4年間かけて学位を取る学部留学です。取材の時点で、台湾での生活は1年ちょっとになります。
英語の次に、もう一つネイティブレベルで話せる言語がほしい。そう考えて高校2年生で台湾行きを決めたとき、周りに台湾留学をする人は一人もいませんでした。日本の国公立並みの学費、書類中心の留学生枠入試、来てから3か月は何も聞き取れなかった中国語が「パンと伸びた」瞬間、そして内向的だった性格が変わっていった話。英語圏以外の留学を考えている人、進路の選択肢を広げたい高校生に、とくに読んでほしいお話です。
台湾 正規留学 経験者・りさりささん
今回はこの方にお話を伺いました!
- NAME名前
- りさりささん
- GRADE留学当時
- 高校卒業後すぐ(取材時点で2年生)
- DESTINATION留学先
- 台湾大学 政治学科
- PERIOD留学期間
- 4年(正規留学)
OSAKATAIPEI
英語の次に、もう一つ。ネイティブレベルの言語がほしくて、台湾を選んだ
留学したいという気持ちは、高校1年生のころからぼんやりとありました。通っていたのは国際文化系のコースがある高校で、留学自体は身近な環境。ただ、りさりささんが高校2年生の10月に決めた行き先は、周りの誰とも違いました。
英語は小さい頃からずっと習っていて得意ではあったんですけど、もう一つ、ネイティブレベルで喋れる言語がほしいなと思って。それで、アジアで話している人口が多い中国語を学ぼうと思いました。
決め手は語学だけではありません。台湾の公立大学の学費は年間およそ50〜70万円で、日本の国公立大学と同じくらい。さらに親日的で、日本からの距離も近い。この条件が重なって、行き先は台湾に決まりました。日本の大学も一応考えてはいたものの、「もう留学に行くぞ」という気持ちが勝っていたそうです。
小さいころから「留学に行きたい」と言い続けていたこともあって、ご両親の反応はあっさりしたものでした。
両親は本当に「やりたいことをしな」みたいな感じだったので、「台湾に行こうと思うねん」って喋ったら、「あ、いいんじゃない」みたいな感じでした。
一方で、周りに台湾留学を考えている人はゼロ。留学に近い高校でも、台湾に行くという人は全くいませんでした。それでも不安より、ワクワクのほうが大きかったといいます。
不安もありましたけど、もう未知の領域すぎて、楽しみのほうが結構勝ってましたね。
入試は書類が中心。留学生枠で、台湾のトップ大学に出願した
台湾の大学には、留学生向けの出願システムがあります。りさりささんが使ったのもこの留学生枠でした。
留学生は主に英語とか中国語とかの資格と、作文と高校の成績とかで出すので、あんまり試験とかはないところが多いんです。そんな感じで入学が決まります。
筆記試験を受けに行くのではなく、語学資格と書類で勝負する。日本の一般入試とはまったく違うルートで、台湾のトップ大学への道が開けるのです。中国語は渡航前に1年ちょっと、文法と単語帳を中心に勉強して臨みました。
来てみたら、想像よりずっと国際的だった
実際に台湾に来てみると、印象は良い方向に裏切られました。
意外と留学生が多くて、日本からもそうだし、欧米とかからも来てて、思ってたよりすごい国際的だなと思いました。衛生環境もあまり良くないイメージがあったんですけど、全然進んでるところもいっぱいあって、台湾自体の印象はいい意味ですごく変わりました。
同じ学年の日本人は、学校全体で20〜25人ほど。交換留学で半年〜1年だけ来る学生に加えて、アメリカやパラグアイから4年間の正規留学で来ている学生もいます。とはいえ日本人同士で固まることはあまりなく、基本はそれぞれが一人で、あるいは台湾人の友達と過ごしているそうです。
台北の街は、「都会とローカルが混在している」とりさりささんは表現します。高いビルが並ぶエリアから少し外れると、一気にローカルな街並みに変わる。小さな島のなかにいろいろなものがぎゅっと詰まっていて、夜行バスで4〜5時間も走れば、マンゴーかき氷が衝撃的においしい南部の台南まで行けてしまいます。
現地の学生は政治学から、留学生は「政治学の中国語」から
授業は90分、教授がスライドを見せながら話す講義型が基本です。ただし英語開講の授業はディスカッションが多めで、なかにはユニークな形式もあります。
行政学の授業で、グループ7人くらいでそれぞれに役割を振って、その役割になりきってロールプレイしてくださいっていうのがあって。「この人はこういう利益を求めているから、こういう動き方をする」みたいな、行政的な動きを体で学ぶ授業でした。
カリキュラムは現地の学生とほぼ同じ。だからこそ、留学生には見えないハンデがあります。
台湾の現地の人は「政治学を学びます」ってなったら政治学から入ると思うんですけど、日本人とか留学生は、まず政治学で使う中国語から学ぶので。そこの差は感じます。
その差を埋めるために、平日は1日2時間の予習復習を自分に課しています。専門の勉強と語学の勉強を同時に回し続けるのが、正規留学のリアルです。
3か月間、何も聞き取れなかった。中国語は「独り言」で、ある日パンと伸びた
渡航前に1年ちょっと勉強していたとはいえ、日本での勉強は本から知識を詰め込む形で、実践の機会はほとんどありませんでした。
最初の3か月くらいは、本当にもう何も聞き取れないし、何も言えないし、みたいな感じでした。でも、ある時から急にパンと伸びる時があって。前までは相手が言ってる単語の30パーセントくらいを聞き取って、連想ゲームみたいに「こういう意味かな」って推測してたのが、意識しなくても文全体が見えてきたり、喋る時も一個一個単語を考えてたのが、まとまりで出てくるようになったり。
その伸びを支えたのが、りさりささん流の勉強法でした。
独り言を言うことがすごく多くなって。移動中とか、自転車に乗ってる時とか、家に着いてからとかに、今日あったことを何も考えずにノンストップで中国語で喋り続けるんです。誰も聞いてないので、失敗してもどうってことないし。
アウトプットの量を増やすと、自分がわからないところが見えるようになって、そこをインプットで意識して見られるようになる。だから、どんどん質が上がっていく感じがあります。
居留証もバイトの許可証も、自分で申請する。留学生同士で助け合って乗り切った
生活面でいちばん手こずったのは、手続きでした。台湾に長期滞在する留学生は、入国から30日以内に「居留証」を申請しなければなりません。
書類もいっぱいあるし、学校ともいろいろやり取りしてみたいなのがすごく、しんどかったですね。学校によっては代わりにやってくれるところもあるらしいんですけど、基本的には全部自分で。オンラインで政府に申請して、承認されたら取りに行く、みたいな感じです。
アルバイトをするにも、留学生は許可証の取得が必要です。それでも、周りには同じ道を通ってきた留学生がたくさんいるので、聞きながら助け合って進められたといいます。ちなみにアルバイトは、日本式の居酒屋を「合わないな」と3日で辞めた経験を経て、今は自分のInstagramでのコラボ投稿の仕事が中心だそうです。
階段で生まれた親友と、朝6時まで語って朝日を見た
一番仲のいい友達との出会いは、入学直後でした。学科の説明会に遅刻しそうになって階段を駆け上がっていたら、そこに同じく遅刻しそうな子がいた。「あなたもあの説明会?」「じゃあ一緒に座ろう」。それだけのきっかけで始まった関係が、今までずっと続いています。相手は台湾人ですが、タイで育ったという国際的なバックグラウンドの持ち主です。
留学中いちばん嬉しかった思い出を聞くと、その親友との何気ない夜の話をしてくれました。
平日の夜10時くらいに「今起きてる?」ってメッセージが来て、行ったらすごく消沈してて。「どうしたん」って話を聞いてたら、そこから話が二転三転して、明け方の6時くらいまでずっと語り合って。気づいたら朝になってたので、「朝日見に行こう」って。そういうちょっとした日常が、振り返ってみると楽しかったな、いい思い出だなって思います。
旅先でも、台湾らしい出来事がありました。冬休みに友達と、渓谷の絶景で知られる東部の花蓮へ。数年前の地震の影響で立ち入り禁止の場所が多いなか、現地のタクシー運転手のおじいちゃんが予想外にアグレッシブでした。
明らかに崩れそうな吊り橋があって、その人がそこに向かって歩いていくんですよ。「これやばいぞ」と思ってたら、本当に行って。立ち入り禁止を乗り越えていって、その先で野生の猿にバナナをあげたり、ヒヤヒヤしながら吊り橋を渡ってるのにめっちゃ揺らされたり。もう完全にアドベンチャーでしたね。
きっちりした日本と比べると、やるときはやるけれど、時間や細かいことには少しおおらか。そんな台湾の空気も、1年かけて体に馴染んできました。
内向的だった自分が、「3〜4割くらいは外向的」になった
留学して変わったことを聞くと、少し笑いながらこう答えてくれました。
すごく外向的にはなりましたね。日本にいる時はすごく内向的で、あんまり人とも話さない感じだったんですけど、せっかく台湾に来たから、もうちょっといろんな人と繋がりを持とうと思って、イベントとかにいろいろ参加して。一番仲のいい友達がすごく外向的な人で、その人を見て「素敵だな」と思って、自分もそうするようにして。今は3割から4割くらいは外向的になったと思います。
「3〜4割」という控えめな自己採点に、りさりささんの正直な人柄がにじみます。それでも、イベントへの参加がきっかけで日本人の台湾留学生による学生団体に入り、SNS発信を担当し、台南に住む先輩に「1週間後に行くので遊んでください」と会いに行く。行動の範囲は、日本にいたころとは比べものにならないほど広がりました。卒業後は日本に帰って就職し、日本を拠点に台湾やアジアと行き来するのが今の目標です。
留学を考えるあなたへ
最後に、留学を考えている人へのアドバイスをお願いすると、2つの言葉をくれました。
フットワークが軽くなったら、より留学生活を楽しめるかなと思います。とりあえず行ってみるとか、「なんかイベントないかな」って探して、そこでいろんな経験をしたり、いろんな人に会って。この繋がりがこうなった、みたいな思いもよらないことがあったりするので。どこにでも行くし、いつでもなんでも行く、みたいな。
あとは、自分が何をしたくて留学に来てるかを、ちゃんと持っておくこと。一つに絞らなくてもいいんですけど、留学に行くって決めた時に思ってたことを、留学中にも定期的に思い返せるといいのかなと思います。
フットワークの軽さは、りさりささん自身が留学の目標のひとつにしていたことでもあります。目的を忘れずに、でも思いもよらない出会いには飛び込んでいく。1年ちょっとの台湾生活が、そのままアドバイスになっていました。
取材を終えて
りさりささんの話でいちばん印象的だったのは、台湾という選択の合理性です。英語に加えてもう一つの言語を、話者人口から逆算して中国語に決める。学費は日本の国公立並み。入試は書類中心の留学生枠。感覚や憧れだけではなく、条件を一つひとつ比べて選んだ道を、周りに前例が一人もいないなかで実行した。高校2年生の意思決定として、驚くほど筋が通っています。
同時に、正規留学の大変さも率直に話してくれました。現地の学生が政治学から入るところを、留学生は政治学の中国語から。最初の3か月は何も聞き取れず、平日は毎日2時間の予習復習。それを「中国語で独り言」という自分に合った方法で乗り越えていく姿は、語学留学とも交換留学とも違う、4年間を現地で生き抜く学部留学のリアルだと思います。
そして何より、内向的だった人が「3〜4割外向的になった」と笑って話せるようになるまでの変化。階段の出会いから続く親友、朝日を見た明け方、花蓮の冒険。台湾での日々は、専門と語学だけでなく、りさりささんの性格と行動力まで変えつつあります。残りの大学生活と、3つの言語を持って日本に帰ってくる日が、今から楽しみです。
