1|# コンプライアンス入門 2| 3|もし明日、あなたの会社がニュースで「コンプライアンス違反」と報じられたら——その原因が、あなたの昨日の「いつもの業務」だったとしたら。 4| 5|残業時間を申告していなかった。取引先の飲食を気軽に受けていた。会議で聞いた情報を家族に話していた——どれも毎日やっている普通の業務です。でも、どれもコンプライアンス違反になりうる行為なんです。 6| 7|「コンプライアンスって法律の話でしょ?」「上司がやることについていけばいいんでしょ?」「接待ぐらいどこでもやってるよ」——こういうふうに思っていると、気づかぬまま違反を続けてしまいます。コンプライアンスは、法律の専門用語ではありません。あなたが毎日の業務で守るルールです。この講座を読み終えたあなたは、次の3つができるようになります。 8| 9|1. コンプライアンスの3つの柱(法令遵守・社内規程・社会的規範)を、自分の業務に当てはめて説明できる 10|2. 残業・取引先との接触・情報取り扱いの3シーンで違反かどうかを具体例で判断できる 11|3. 違反の疑いがある状況を**「迷ったら相談する」の3ステップで行動できる** 12| 13|この講座は最後まで、入社3ヶ月目の「佐藤さん」の1日という、1人の新入社員の日常だけで説明します。朝のメールチェックから退勤時の残業申告まで、佐藤さんの業務に何が潜んでいるかを3章で辿っていきます。各章末には手を動かす演習も置いているので、自分の1日に置き換えながら読み進めてみてください。そして、コンプライアンスの基本を掴んだ後は、関連講座でさらに深められます。まずは、この1本で自分のルールを掴みましょう。 14| 15|## 第1章:コンプライアンスって何?——守るべき3つのルール 16| 17|まずは、何を守るべきかを知る章です。「コンプライアンスは法律の話」という思い込みを外し、自分の日常業務に潜むルールを自覚します。 18| 19|### この章のゴール 20| 21|この章を読み終えると、法令遵守・社内規程・社会的規範の3つの柱を、自分の業務に当てはめて説明できるようになります。 22| 23|### 1-1 「法律の話でしょ?」の正体 24| 25|「コンプライアンス」と聞くと、何を思い浮かべますか?「法律の話」「自分には関係ない」「法務部がやってくれるんでしょ」——そう思いがちです。 26| 27|でも、JIS Q 37001(コンプライアンス経営管理の日本規格)は、コンプライアンスを**「組織が順守しなければならない要件(法令・規制・規則・業界基準・組織の方針等)を満たすこと」と定義しています。法律だけではありません。社内ルールも、社会から期待されることも、あなたが守るべきルールなんです。コンプライアンス違反は、法律違反だけでは起きません。社内規程に違反しても、社会から批判されても、コンプライアンス違反です。 28| 29|### 1-2 3つの柱(法令遵守・社内規程・社会的規範) 30| 31|コンプライアンスには、3つの柱があります。 32| 33|①法令遵守——法律で禁止されていることをしない。労働基準法、不正競争防止法、個人情報保護法等。法律に触れれば罰則の対象にもなります。 34| 35|②社内規程——会社が定めたルールを守る。就業規則、情報セキュリティ規程、秘密保持規程等。法律に書いてなくても、会社が「こうする」と決めたことは守る。違反すれば懲戒の対象にもなります。 36| 37|③社会的規範——法律に書いてなくても、社会から「それはやってはいけない」と批判される行動をしない。パワーハラスメント、長時間労働の常態化、取引先への不当な圧力等。法律違反でなくても、社会的批判を招けば会社の信用は失墜します。 38| 39|この3つを守るのがコンプライアンス——シンプルにこう捉え直せます。 40| 41|### 1-3 「法律に触れなければセーフ」ではない 42| 43|ここで、よくある3つの誤解を潰しておきましょう。 44| 45|「法律に触れなければセーフ」→ 違います。社内規程に違反すれば懲戒の対象です。社会的批判を招けば会社の信用は落ちます。3つの柱すべてを守るのがコンプライアンスです。 46| 47|「上司がやっているからOK」→ 違います。上司がやっていることも違反なら違反です。経済産業省の指針でも、コンプライアンスは「法令遵守」に限らず「社会規範の遵守」を含む広義の概念として把握すべきことが明記されています。 47| 48|「みんなやっているから大丈夫」→ 違います。多数の人が違反していても、違反は違反です。これが発覚したときのダメージは、かえって大きくなります。 49| 50|### 1-4 佐藤さんの1日に潜むルール 51| 52|ここで、この講座を通して使う共通例「入社3ヶ月目の佐藤さん」の1日を見てみましょう。 53| 54|朝9時——メールをチェック。取引先から高級ディナーの招待が届いている(→贈収益防止の観点) 55|午後——会議で社内の価格情報を聞く。取引先に口頭で伝えるよう上司に頼まれる(→秘密保持の観点) 56|退勤時——残業は毎月80時間。申告は40時間しかしていない(→労基法違反の恐れ+社内規程違反) 57| 58|どれも「いつもやってる業務」ですよね。でも、取引先との飲食がルールの上限を超えていたら? 価格情報を外に出したら? 残業の上限を超えていて申告漏れがあったら? どれも現実に問題になりうる行為です。 59| 60|### 1-5 この章の確認(演習) 61| 62|自分の1日の業務を3つ書き出し**、それぞれ「3つの柱(法令遵守・社内規程・社会的規範)のどれに関わりそうか」を1文で書いてみてください。たとえば「メールで取引先に情報を送る→個人情報保護法+社内の秘密保持規程に関わる」のように。自分の業務にコンプライアンスが関わっていることを、手を動かして自覚するのがこの章のゴールです。 63| 64|## 第2章:3つのシーンで違反を見抜く——残業・取引先・情報 65| 66|第1章で「3つの柱」を知りました。この章では、新入社員の日常でいちばん起きやすい3つのシーン——残業・取引先との接触・情報取り扱い——に絞って、違反かどうかを判断する練習をします。 67| 68|### この章のゴール 69| 70|この章を読み終えると、残業・取引先との接触・情報取り扱いの3シーンで違反かどうかを具体例で判断できるようになります。 71| 72|### 2-1 残業:毎月80時間は「いつも通り」の正体 73| 74|佐藤さんの残業は、毎月80時間。でも、労働基準法では残業時間に上限があります。2019年の働き方改革関連法により、法定時間外労働の上限は月45時間・年360時間(原則)と定められました。36協定(労働基準法第36条に基づく協定)を結んでいても、この上限は超えられません。 75| 76|佐藤さんの80時間は、この上限を大きく超えています。上司が「残業してくれ」と頼んでも、上限を超える残業は法律違反です。さらに、残業時間を正確に申告しない・させないことも、厚生労働省のガイドラインで禁止されています。「残業は上司が頼むから断れない」——その気持ちはわかります。でも、36協定の上限を超える残業は、頼まれてもやってはいけない法律違反なんです。 77| 78|### 2-2 取引先との接触:高級ディナーの裏にあるリスク 79| 80|佐藤さんの受信箱に、取引先からの高級ディナーの招待が届きました。「いつもの接待でしょ」と思うかもしれません。でも、不正競争防止法では、取引先の職員に利益を供与して取引上の便宜を得ることを禁止しています。これが、いわゆる「贈収益防止」の観点です。 81| 82|多くの会社では、接待・贈答の金額上限を社内規程で定めています。たとえば「1回5,000円以内」等。この上限を超える飲食を受ければ、贈収益の恐れがあり、社内規程違反にもなります。「取引先との飲食はビジネスの常識」——確かに、適正な範囲の飲食はビジネスの一部です。でも、額が上限を超えていれば、常識でも違反です。 83| 84|### 2-3 情報取り扱い:「口頭ならセーフ」は大間違い 85| 86|佐藤さんは、会議で聞いた社内の価格情報を、取引先に口頭で伝えるよう上司に頼まれました。「書面じゃないから大丈夫でしょ」——そう思うかもしれません。でも、これも違反の恐れがあります。 87| 88|不正競争防止法は、営業秘密の不正開示を禁止しています。「営業秘密」とは、秘密として管理されている技術上または営業上の有用情報で、公然と知られていないものです。個人情報保護法も、個人情報の目的外利用を禁止しています。さらに、社内の秘密保持規程も、社外秘情報の外部開示を禁じています。 89| 90|重要なのは、口頭でも書面でも、情報が外に出れば違反だということです。「口頭ならセーフ」というのは、思い込みでしかありません。 91| 92|### 2-4 3シーン判断チェック 93| 94|3つのシーンで違反かどうかを判断するには、次の3ステップを使います。 95| 96|1. 該当する法律・社内規程を確認する——残業なら労働基準法と36協定。飲食なら不正競争防止法と社内の接待ルール。情報なら不正競争防止法と秘密保持規程 97|2. 「これを公に説明できるか」で自問する——ニュースで報じられても説明できる行動かどうか 98|3. 迷ったら相談する——次章で詳しく説明します 99| 100|この3ステップを「迷ったときにやる癖」にする——それが、違反を見抜くいちばん確実な方法です。「これって大丈夫?」と思った時点で、すでにアラームが鳴っているんです。 101| 102|### 2-5 この章の確認(演習) 103| 104|次の3つのシナリオを読み、違反かどうかを判断し、理由を1文で書いてみてください。 105| 106|- シナリオA:月60時間の残業。36協定は結んでいるが、上限の月45時間を超えている 107|- シナリオB:取引先から1万円のコース料理に招待された。社内ルールは1回5,000円以内 108|- シナリオC:取引先の担当者に、社内の新商品の発売時期を口頭で教えた。秘密保持契約がある 109| 110|3シーンで違反を判断する練習をするのが、この章のゴールです。 111| 112|## 第3章:迷ったらどうする?——相談・報告・守る仕組み 113| 114|第1章で3つの柱を知り、第2章で3シーンの違反を見抜きました。最後の章は、迷ったときにどう動くかを3つのステップで身につけます。 115| 116|### この章のゴール 117| 118|この章を読み終えると、違反の疑いがある状況を**「迷ったら相談する」の3ステップで行動できるようになります。 119| 120|### 3-1 「これって大丈夫?」=アラームの音 121| 122|「これって大丈夫?」「これって言っちゃう?」「これってやっていいの?」——こんな迷いを感じたことはありませんか? 123| 124|実は、この迷いこそが、コンプライアンス違反の予兆なんです。「これって大丈夫?」と思った時点で、あなたの内なるアラームはすでに鳴っています。そのアラームを無視しないこと——それが、違反を防ぐいちばん確実な方法です。 125| 126|### 3-2 相談の3ステップ 127| 128|迷いを感じたら、次の3ステップで動きます。 129| 130|①迷いを自覚する——「これって大丈夫?」と思った時点でストップ。その迷いを放置しないことが最大の防御です。 131| 132|②社内の窓口に相談する——まずは直属の上司に。上司が話しにくければ、コンプライアンス窓口(会社が設けている専用の相談窓口)に。さらに、内部通報制度(匿名で通報できる制度)も使えます。 133| 134|③記録を残す——いつ・何を・誰に相談したかをメモしておく。記録が残っていれば、後から「相談した事実」を証明できます。 135| 136|### 3-3 内部通報制度:匿名で相談できる守り 137| 138|「相談したら怒られる」「不利になるかも」——こう思って黙っていませんか? 139| 140|公益通報者保護法は、違反行為を通報した労働者が不利益な取り扱いを受けてはならないことを定めています。解雇・降格・減給等の報復は無効です。2022年の法改正で、従業員300人を超える事業者には内部通報体制の整備が義務化されました。多くの会社が、匿名で通報できる窓口を設けています。 141| 142|「小さなことだから相談しなくていい」——この思い込みがいちばん危険です。小さい違反を放置すると、やがて大きな問題に膨らみます。「怪しい」と思った時点で相談することが、被害を最小化します。 142| 143|### 3-4 佐藤さんの今日から変わる3つ 144| 145|佐藤さんの1日を振り返り、3つの迷いを「今日から」行動に変えましょう。 146| 147|| 佐藤さんの迷い | 今日からどう動くか | 148||---|---| 149|| 残業が毎月80時間。「断れないし……」 | 上司に「月45時間が上限です」と伝える。それでも変わらなければコンプライアンス窓口に相談 | 150|| 取引先から高級ディナーに招待。「断るのは失礼……」 | 社内の接待ルールを確認。上限を超えていれば丁重に辞退し、コンプライアンス窓口に相談 | 151|| 価格情報を口頭で教えるよう頼まれた。「口頭なら大丈夫……?」 | 「これって大丈夫?」=アラームの音。秘密保持規程を確認し、迷ったら上司に相談 | 152| 153|どれも、今日1つだけ相談すれば、あなたのアラームは機能し始めます。 154| 155|### 3-5 この章の確認(演習) 156| 157|自分が「これって大丈夫?」と思った最近の状況を1つ書き**、3ステップ(迷いを自覚・窓口に相談・記録を残す)でどう動くかを書いてみてください。きれいでなくてよいです。1つ動かすことが、この章のゴールです。 158| 159|## まとめ:「これって大丈夫?」が、あなたのアラームの音 160| 161|3章を1本の線で並べ直しましょう。 162| 163|ルールを知る——コンプライアンスは3つの柱(法令遵守・社内規程・社会的規範)でできている。「法律に触れなければセーフ」ではない。 164| 165|違反を見抜く——残業・取引先との接触・情報取り扱いの3シーンで、法律と社内規程に照らして違反を判断する。 166| 167|行動する——「これって大丈夫?」と思ったら、迷いを自覚し、窓口に相談し、記録を残す。 168| 169|コンプライアンスは「法律の専門用語」ではありません。あなたが毎日の業務で守るルールです。すべての判断は**「これって大丈夫?」に戻ります。 170| 171|「『これって大丈夫?』が、あなたのアラームの音。迷った時点で、もうストップ」**——このひと言を、明日のデスクに持っていってください。 172| 173|### 明日の最初の一歩 174| 175|今日「これって大丈夫?」と思ったことを1つ、社内の窓口に相談する。それだけで、あなたのアラームは機能し始めます。きれいでなくてよい。1つ動かすことが、守りの始まりです。 176| 177|### さらに深める導線 178| 179|この講座は「コンプライアンスの基本(3つの柱/3シーンでの判断/相談の3ステップ)」という入口です。さらに深めるなら—— 180| 181|- 情報セキュリティの基本は 情報セキュリティ入門(kouza-105) 182|- リスクの全体像は リスクマネジメント入門 183| 184|法人でまとまった研修をご検討の方は、法人研修資料請求へお問い合わせください。
よくある質問
コンプライアンスとは何ですか?
法令遵守・社内規程・社会的規範の3つを守ることです。「法律に触れなければセーフ」ではなく、社内ルールや社会から求められる行動規範も含みます。
上司が指示した業務でもコンプライアンス違反になりますか?
なります。上司の指示であっても、法律や社内規程・社会的規範に反する行為は違反です。「上司がやっているからOK」という思い込みは誤りです。
残業の上限はどのくらいですか?
法律の原則では月45時間・年360時間が上限です。36協定を結んでいてもこの上限を超える残業は法律違反になります。
取引先からの飲食接待はどこまで許されますか?
会社の社内規程で定めた金額上限の範囲内であれば問題ありません。上限を超える飲食を受けると社内規程違反や不正競争防止法上のリスクが生じます。
違反かどうか迷ったときはどうすればよいですか?
「これって大丈夫?」と感じた時点でいったん止まり、直属の上司またはコンプライアンス窓口に相談し、相談した内容と日時を記録に残すことが基本の3ステップです。
